生成AIを仕事に使うかどうかは、多くの法律事務所で、もう議論の段階を過ぎています。弁護士会のガイドラインもそろい、所内ルールの書き方は見えてきました。ただ、ルールを書いただけでは、それが守られたかどうかは分かりません。弁護士情報セキュリティ規程は、取扱方法を定めることに加えて、それが機能しているかを点検するよう努めることも求めています。
使うかどうかの議論は終わっている
弁護士ドットコムが2023年4月に登録弁護士146人に行った調査では、ChatGPTを利用したことがあると答えた弁護士は28.8%でした。心配な点としては、事実関係や法律上の誤りに次いで、守秘義務や情報漏洩が挙がっています。
その後、依頼者の側では利用が一気に広がりました。野村総合研究所が売上高上位の企業に行った調査では、生成AIを導入済みの企業は、2023年の33.8%から2025年には57.7%に増えました。LegalOn Technologiesが2025年2月に企業で法務業務に携わる500人に行った調査でも、生成AIを使っている人は6割を超えました。
弁護士会の中でも、話題は「使うかどうか」から「どう使うか」に移っています。2026年9月5日の第24回弁護士業務改革シンポジウムでは、登壇者の一人が、事務職員の書面作成などの業務の7〜8割程度はAIで処理できるようになると述べました(日弁連新聞第631号)。
ルールに書く中身は、ほぼ出そろった
東京弁護士会のガイドラインは、サービスの選定、出力のファクトチェック、依頼者への説明、弁護士報酬、安全管理措置の観点から論点を整理しています。秘匿性の高い情報を入力する場合は、入力した情報が学習に使われないことなどを利用規約で確かめるよう勧めています。そうした場合には、依頼者に利用を説明し、必要に応じて同意を得る、委任契約書に明記するといった対応も求めています。
個人情報保護委員会も、2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しました。個人情報を含むプロンプトを入力する事業者には、サービス事業者が入力内容を機械学習に使わないことを十分に確認するよう求めています。
東京弁護士会の会報LIBRAは、2026年7・8月号で生成AIを特集しました。所内ルールで決めておく事項として挙げているのは、使ってよいサービス、入力してはいけない情報、確認の手順です。小さな事務所なら、これに1項目を足して、A4用紙1枚にまとめられます。足すのは、ルールが守られたかどうかを事務所で確かめる方法です。
点検には記録がいる
弁護士情報セキュリティ規程は、取扱方法を定める際に、点検と改善の方法にも配慮するよう求めています(3条3項)。点検するには、何を、いつ、どこに渡したかの記録が必要です。
たとえば、弁護士3人と事務職員4人の「みなと橋法律事務所」(架空の事務所です)を考えます。所内ルールでは、依頼者の資料を無料版のチャットAIに入力することを禁じています。ある日、事務職員が、遺産分割の依頼者から届いた戸籍の記載と預金口座の一覧を貼り付けて、相続関係の整理を頼みました。期限が迫っていて、それが一番早い方法だったからです。
事務所がこれを知るのは、多くの場合、何か問題が起きた後です。設定によっては、チャットの履歴に依頼者の資料が残ります。事件記録の写しが、事務所の外に保管されているのと同じ状態です。弁護士職務基本規程は、事件記録の保管や廃棄の際に秘密が漏れないよう注意することを求めています(18条)。事務職員などの指導・監督も弁護士の義務です(19条)。
AIを禁止しても利用が止まるとは限らず、報告だけが上がらなくなるおそれがあります。守られるルールは、たいてい一番手早い方法を指定しています。保護する手順のほうが手早ければ、一人ひとりの心がけに頼らずに済みます。
保護する手順を、いちばん手早い手順にする
事務所で扱うのは、短い文章ではなくファイルです。promptShieldはWindowsのデスクトップアプリです。ライブラリには、PDF、Word、Excel、PowerPointのファイル、テキスト、画像を追加できます。スキャンしたページの文字は、ファイルを開いたときに自動で読み取られます。検出を実行すると、パターン、固有名詞の検出、登録語句(事務所で登録した語句)、任意のAI詳細分析が一度に動きます。
既定では、検出結果を人が確認して確認済みにするまで、ファイルはダウンロードできません。この制限は「設定」でオフにできます。黒塗りは文字を完全に削除するので、事務所の外に出す文書に向いています。コード化は、値を[P7Q3K]のような形式の短いコードに置き換え、元の値との対応をお使いのパソコンのコード台帳に記録します。
同じフォルダーの中では、同じ値にはいつも同じコードが付きます。別のフォルダーでは、同じ値にも別のコードが付きます。AIの回答をデコードすると、元の値がパソコンの中で戻ります(契約書をAIに渡す前に確かめること)。
記録はどこに残るか
Proプランでは、ブラウザーのダッシュボードでライセンスをメールアドレスに割り当て、チームや案件の種類ごとにタグを付けられます。コンプライアンス管理の画面には、ライセンスごとに、処理したページ数、検出・コード化・黒塗りした件数、最後に使った日時が表示されます。この内容はレポートとして書き出せます。監査ログには操作の種類と件数が残り、文書の内容は残りません。この画面と監査ログを開けるのは、アカウントの所有者だけです。
限界もあります。表示されるのはpromptShieldの中での作業だけで、ツールの外で扱われた文書は見えません。オフラインでライセンス認証したデバイスは、作業を確かめられないため、その旨が表示されます。それでも、毎月のレポートを残しておけば、6条の点検の材料になり、AIの利用を説明した依頼者に話すときの裏付けにもなります。
よくある質問
日弁連に生成AIのガイドラインはありますか?
日弁連AI戦略ワーキンググループの「弁護士業務における生成AIの利活用等に関する注意事項」があります(2025年9月、2026年2月更新)。会員限りの資料で、日弁連の公式見解でも、懲戒の直接の基準でもありません。会員は日弁連の会員専用サイトで読めます。
依頼者の資料を生成AIに入力するとき、同意は必要ですか?
東京弁護士会のガイドラインは、秘匿性の高い情報を入力する場合、利用を説明し、必要に応じて同意を得る、委任契約書に明記するといった対応を求めています。氏名や口座番号を先にコード化しておけば、それらの値そのものは入力せずに済みます。
promptShieldを使うと、文書は事務所の外に出ますか?
出ません。検出、文字の読み取り、黒塗り、コード化はパソコンの中で行われます。当社のサーバーが受け取るのはライセンスとアップデートの確認、処理件数などで、文書の内容やファイル名は受け取りません。
小さな事務所には、どのプランが合いますか?
Basicプランはデスクトップアプリで、検出、黒塗り、コード化、デコードを使えます。Proプランでは、ライセンス管理、監査ログ、コンプライアンス管理が加わります。どちらも1人につき2台のデバイスで使えます。7日間の無料トライアルはアカウント不要で、1台で使えます。
今週から始めること
チャットAIに頼りたくなる作業を1つ選び、依頼者の情報を保護したうえでその作業を行う手順を決めます。次に、その手順をいちばん手早い手順にします。1か月後に記録を開き、ルールどおりに使われていたかを確かめてください。