法務AIのサービスで文書を読むAIモデルを決めているのは、いまのところ主にサービスを提供する事業者です。LegalOn Technologiesは2025年11月、OpenAIが公開したばかりのGPT-5.1を、自社の検証を経て法務AIに実装したと発表しました。利用者にとっては良い知らせで、事業者として筋の通った判断です。ただ、決めたのは事業者で、契約している事務所や法務部ではありません。モデルを選ぶ権限は事業者にあっても、審査基準などのノウハウと、依頼者情報の扱いは、事務所の手元で管理できます。
モデルを選んでいるのは事業者
OpenAIは2025年11月13日にGPT-5.1を公開しました。LegalOn Technologiesは17日、精度検証のうえ自社の法務AIに実装したと発表しています。自社のベンチマークで従来のモデルと比べ、修正案の質が上がり、処理速度も約30%改善したとしています。そのうえで、用途や業務の流れに最も適したモデルを選ぶため、比較検証を続けると説明しています。
これは批判ではありません。新しいモデルを自社で検証し、良ければ取り入れるのは、サービスを良くするためのまっとうなやり方です。考えたいのは、誰が決めるかです。どのモデルをいつ採用するかは、事業者が自社の検証にもとづいて決めます。事務所の文書は、そのときサービスの中で動いているモデルが読みます。
法務省も、事業者が利用者に説明することを重く見ています。2026年8月21日に公表した弁護士法72条についての新しいガイドラインは、法務AIの提供者に向けたものです。RAG(外部のデータベースを参照して回答を作る仕組み)や学習データ、出力の性質と制約を、利用者に十分に説明することが重要だとしています。AI事業者ガイドラインへの対応状況の説明や、サービス規約の文書化も挙げています。事務所が事業者に説明を求めるのは、ごく自然なことです。
移しにくいのはモデルではない
モデルそのものは入れ替えのきく部品です。LegalOnの例のように、事業者自身も、より良いモデルが出れば入れ替えます。事務所にとって移しにくいのは、サービスの中に作ったものです。
1つは、審査基準やひな形です。LegalOnには、登録したプレイブック(自社の契約審査基準)と照らし合わせて契約書を確認する機能があります。2025年11月からは、ExcelやWordにまとめた審査基準を読み込ませるだけで、プレイブックの形式に変換できるようになりました。長年かけて作った基準をすぐに使えるのは大きな利点です。同時に、その後の修正をサービスの中だけで重ねていくと、事務所のノウハウがサービスの中にしかない状態になります。
もう1つは、依頼者情報の扱いの確認です。新しいサービスを入れるたびに、依頼者の文書がどこで、どのような条件で扱われるのかを確かめ直します。弁護士情報セキュリティ規程6条は、技術的進歩や職務遂行体制の変化に応じて、安全管理措置などが適切に機能しているかを点検するよう求めています。必要に応じて改善することも求めています。サービスの中のモデルが変わることも、点検のきっかけになります。
契約の形も関係します。GVA TECHは2025年12月期の有価証券報告書で、利用アカウント数等に応じた月額利用料と初期導入費用を受け取っていると説明しています。乗り換えれば、新しいサービスの導入の手間も一からかかります。
手元に残しておく4つのこと
- 審査基準とひな形の原本は自分のファイルに置く。ExcelやWordで管理している基準を原本とし、サービスにはそこから読み込ませます。修正もまず原本に入れます。サービスを替えても、基準は手元に残ります。
- 書き出せるかどうかを書面で確かめる。契約の前に、登録したプレイブックや作業の記録を書き出せるか、どの形式で書き出せるかを尋ね、その答えを残しておきます。
- モデルの変更を知らせてもらう。モデルが変わると、同じ契約書に対する指摘も変わることがあります。変更時にどう知らせてもらえるかを確認し、変わったら改めて検証します。
- 文書の下準備は事務所の中で行う。氏名、住所、口座番号は、どのサービスに渡す前にも、事務所のパソコンで取り除きます。そうすれば依頼者への説明は、その年にどの事業者を使っているかに左右されません。
promptShieldが受け持つのは、4つ目です。コード化すると、識別情報が[P0ABCD]のような形式のコードに置き換わります。置き換えはお使いのパソコンの中で行われ、文書がパソコンの外に出ることはありません。同じフォルダーの中では同じ氏名に同じコードが付くので、AIは複数の文書にまたがって誰が誰かを区別できます。
コード化した文書は、ClaudeにもChatGPTにも、法務AIのサービスにも渡せます。AIの回答をデコードすると、パソコンの中でコードが元の値に置き換わります。詳しくは元に戻せる置き換えの仕組みをご覧ください。
これだけでは足りないこと
識別情報を取り除いても、文書が秘密でなくなるわけではありません。取引条件や特徴的な事実から依頼者が分かることはありますし、弁護士職務基本規程23条が守るのは、依頼者について職務上知り得た秘密の全体です。どのサービスを選ぶ場合も、入力を学習に使わない法人向けアカウントを使います。そのルールの書き方は、小規模事務所のAI利用ルールにまとめています。
法務AIのサービスには、弁護士が監修した審査基準やひな形、実務書など、料金に見合う中身があります。その中身についてはAI契約書レビューの料金は何の対価かで整理しました。目指すのは、良いサービスだから契約し、良いうちは使い続けることです。やめるのが大変だから使い続ける、という状態は避けたいところです。
よくある質問
法務AIのベンダーロックインとは何ですか?
ほかに良いサービスがあっても、乗り換えるより使い続けるほうが負担が小さい状態を指します。法務AIでは、モデルそのものより、サービスの中に作った審査基準や作業の記録、アカウント単位の契約、新しいサービスのたびに必要になる依頼者情報の確認が原因になりやすいと考えられます。
法務AIのサービスは、どのAIモデルを使っていますか?
サービスによって異なり、公表していない事業者もあります。LegalOnは2025年11月、OpenAIのGPT-5.1を実装したと発表しました。弁護士ドットコムは、2023年9月に始めたLIBRARY AIアシスタントでGPT-4を使うとしています。現在どのモデルを使っているかは、契約の前に事業者に確認します。
自社の審査基準をサービスに登録しても大丈夫ですか?
登録すれば、自社の基準に沿ったレビューができます。それが法務AIの大きな利点です。原本をExcelやWordで手元に置き、修正もまず原本に入れておけば、サービスを替えるときにも困りません。
契約の途中で、法務AIのサービスを乗り換えられますか?
条件は契約によって異なるので、契約書で確かめます。手間がかかるのは、審査基準の登録し直しと、依頼者情報の扱いの確認のやり直しです。基準の原本を自分のファイルに置き、文書を外に出す前に識別情報を取り除いておけば、どちらの手間も小さくなります。