AI契約書レビューの料金は、AIモデルの利用料というより、専門家が作った中身と、データの扱いについての説明への対価です。中身とは、弁護士が監修した審査基準やひな形、出典のある実務書です。使われているモデルは、公表例を見るかぎりOpenAIのGPTで、事務所や企業も自分で契約できます。データの扱いについての説明は、事務所や法務部が自分で用意できます。そうすれば、サービスは中身で選べるようになります。
中で動いているのは汎用のモデル
OpenAIは2025年11月13日にGPT-5.1を公開しました。LegalOn Technologiesは4日後、精度検証のうえ自社の法務AIに実装したと発表しています。用途ごとに最も適したモデルを選ぶため、比較検証を続けるともしています。弁護士ドットコムのLIBRARY AIアシスタントは、実務書を文章で検索できるサービスです。2023年9月の発表では、AIにGPT-4を、基盤にMicrosoft Azureを使うとしています。
どちらも、OpenAIが一般向けに提供してきたモデルです。事務所や企業も、ChatGPTの法人向けプランやAPIで同じ系統のモデルを使えます。料金の差を、モデルの性能の差だけで説明するのは難しいでしょう。
料金に含まれているもの
1つ目は、法律の専門家が作った中身です。LegalOnは、AIを「弁護士が執筆・監修した専門的な法的コンテンツ」に基づいて構築していると説明しています。森・濱田松本法律事務所の知見を生かしたひな形と解説も提供しています。Legalscapeは40社を超える出版社と提携し、実務書をAIで検索できるようにしています。汎用のAIに契約書を読ませても、こうした基準や実務書は付いてきません。
2つ目は、法務AIとして提供するための体制です。法務省は2026年8月21日、弁護士法72条との関係についての新しいガイドラインを公表し、2023年8月のガイドラインを補いました。鑑定にわたり得る機能では、日本の弁護士資格を持つ人が監修や設計に実質的に関わることが望ましいとされています。根拠や参照元の表示も推奨されています。個人情報保護法などに適合した取扱いも求められています。料金には、こうした体制の費用も含まれていると考えられます。
3つ目は、データの扱いについての説明です。依頼者の企業から届くセキュリティチェックシートには、文書がどこで処理されるのかという質問がよく入っています。サービスを契約していれば、その規約やセキュリティの資料を示して回答できます。
料金は公開されていないことが多く、LegalOnのサイトにもデモと資料請求の窓口が置かれています。GVA TECHは2025年12月期の有価証券報告書で、利用アカウント数等に応じた月額利用料と初期導入費用を受け取っていると説明しています。アカウント単位の契約では、使う人の数がそのまま料金に響きます。
弁護士が汎用のAIを使うときの論点
法務AIをめぐって日本でまず問われてきたのは、弁護士法72条との関係です。ただ、法務省のガイドラインが整理しているのは、主にサービスを提供する側です。弁護士が出力を自ら精査し、必要に応じて修正して使う場合は、同条に違反しないとされています。法律事務所がChatGPTやClaudeを使うときに残るのは、守秘と情報管理の問題です。
弁護士職務基本規程23条は、依頼者について職務上知り得た秘密を、正当な理由なく他に漏らすことを禁じています。弁護士情報セキュリティ規程5条は、情報の提供や送信を含む各段階で安全を確保するよう求めています。外部のAIに文書を渡すことも、その一場面です。
企業の法務部にも、個人情報について確かめることがあります。個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、本人の同意なく個人情報を含むプロンプトを入力する事業者に、生成AIの提供事業者が「当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」を求めています。OpenAIとAnthropicは、法人向けサービスへの入力を既定では学習に使わないとしています。それでも、文書が外に出ることに変わりはありません。
データの扱いの説明を事務所で用意する
変えられるのは、外に出す中身です。業務委託契約書の損害賠償条項をAIに検討させるのに、相手方の担当者が山田 太郎さんだと伝える必要はありません。住所が東京都千代田区〇〇1-2-3であることも不要です。必要なのは条項の文言です。氏名、住所、口座番号を先に取り除けば、それらは事務所のパソコンから出ません。セキュリティチェックシートへの回答も短くなります。この方法は、ChatGPTでも、Claudeでも、法務AIのサービスでも同じです。
promptShieldは、識別情報を[P0ABCD]のような形式のコードに置き換えます。置き換えはお使いのパソコンの中で行われ、文書がパソコンの外に出ることはありません。同じフォルダーの中では同じ氏名に同じコードが付くので、AIは複数の文書にまたがって誰が誰かを区別できます。AIの回答をデコードすると、パソコンの中でコードが元の値に置き換わります。詳しくは元に戻せる置き換えの仕組みをご覧ください。
識別情報を取り除いても残るもの
識別情報を取り除いても、文書が秘密でなくなるわけではありません。職務基本規程23条が対象とするのは、依頼者について知り得た秘密の全体です。氏名を消した事業譲渡の検討メモからでも、取引条件から対象会社が分かることはあります。そのため、入力を学習に使わない法人向けアカウントを使い続け、ルールを書面にしておきます。書き方は小規模事務所のAI利用ルールにまとめています。
ここまで整えれば、法務AIのサービスは、審査基準や実務書といった中身のために選べます。契約後も自社の審査基準を手元に残す方法は、法務AIのベンダーロックインについての記事で取り上げています。
よくある質問
AI契約書レビューは、ChatGPTで代わりになりますか?
モデルの部分は重なりますが、それだけでは代わりになりません。法務AIのサービスには、弁護士が監修した審査基準やひな形、出典を示す実務書が付いています。ChatGPTに契約書を読ませる場合は、その基準を自分で用意します。
AI契約書レビューは、弁護士法72条に違反しませんか?
法務省は2023年8月と2026年8月のガイドラインで、考え方を示しています。最終的な判断は裁判所に委ねられるとしたうえで、弁護士が出力を自ら精査し、必要に応じて修正して使う場合は違反しないと整理しています。
弁護士が依頼者の案件でChatGPTやClaudeを使ってもよいですか?
使うなら法人向けアカウントで、慎重に使います。守秘の定めはそのまま及び、個人情報保護委員会は学習に利用されないことなどの確認を求めています。先に識別情報を取り除けば、AIに渡る依頼者の情報は大きく減ります。
氏名を消せば、文書は秘密ではなくなりますか?
なりません。取引条件や特徴的な事実から、依頼者が分かることがあります。