「AIに入れた文書は日本の中にとどまるのか」と依頼者に聞かれると、Microsoft 365 Copilotを使う事務所は、保存場所が日本であることを根拠に答えたくなります。ところがMicrosoftの公開資料では、保存する場所とAIが処理する場所は別々に説明されています。処理の場所は、テナントの管理者が使えるようにしたAIモデルによっても変わります。AIに渡す前に氏名などを取り除いておけば、設定がどうであっても同じ説明ができます。
保存の約束と、処理の場所は別のもの
Microsoft 365の「データ所在地」は、主にデータを保存する場所の約束です。保存場所は、テナントを作成したときに登録した国をもとに決まります。Copilotのプロンプトと応答も、2024年3月1日にこの約束の対象に加わりました。
AIが回答を作る処理については、説明が異なります。CopilotからAIモデルへの呼び出しは、原則としてその地域で最も近いデータセンターに送られます。ただし、利用が集中する時間帯には、別の地域で処理されることもあります。EU以外の顧客のクエリは「米国、EU、またはその他のリージョン」で処理される、と書かれています。
Microsoftは2025年11月4日、日本を含む4か国で、処理を国内で行う選択肢を2025年末までに提供すると発表しました。その後、2026年4月3日の追記で計画が見直され、日本は2028年の見込みとされています。保存場所が日本であっても、処理まで日本で行われているとは言えません。
Claudeのモデルは、日本では既定で使える状態
Copilotは、AnthropicのClaudeのモデルでも動きます。Microsoftの資料では、AnthropicはMicrosoftの再委託先(サブプロセッサー)で、通常のClaudeのモデルにはMicrosoftの製品条項とデータ保護補遺が適用されます。
違うのは処理の場所です。これらのモデルは「該当する場合は国内処理コミットメントから除外されています」と明記されています(日本語版は機械翻訳)。既定でオフになるのはEU、EFTA、英国の顧客で、日本はこの一覧にありません。日本の多くの商用テナントでは、管理者が何もしなければ、利用者はClaudeを選べます。
一部の高度なモデルは「データ保持を備えたAnthropicモデル」として別に扱われます。どの地域でも既定でオフで、管理者が有効にした場合に限り、Anthropic自身の条件で処理されます。入力と出力の多くは、Anthropicが最長30日間保存します。
Microsoftはこれらの点をはっきり説明しています。Copilotのアプリでは、Claudeが使われているときに表示が出ます。管理者は、Microsoft 365管理センターの「Copilot」の設定で、Anthropicを無効にしたり、使える人を限定したりできます。
10月15日には、商用ライセンス向けに法務向けの機能「Copilot for Legal」の提供が始まり、Wordで20を超える法務のスキルを使えるようになりました(ビジネス+IT、2026年10月16日)。これもCopilotの一部なので、同じ点を確かめる必要があります。
個人情報保護法28条との関係
28条は、外国にある第三者に提供する場合、原則として本人の同意を求めています。個人情報保護委員会のQ&A(Q12-1)によれば、取扱いを委託する場合も同じです。
クラウドについては、外国の事業者が「個人データを取り扱わないこととなっている場合」は提供に当たらない、とされています(Q12-3)。契約で取り扱わない旨を定め、アクセス制御を適切に行っている場合などです。外国の事業者がデータを取り扱っていれば、サーバーが国内にあっても、原則として提供に当たります(Q12-4)。
Q&Aが例に挙げているのは、サーバーに保存する場面です。プロンプトを読んで回答を作る処理を同じように考えられるかは、契約と処理の実態をもとに事業者が判断します。どちらでも、外国でデータが取り扱われる以上、その国の制度を把握して安全管理措置を講じる必要があります(Q10-25)。本人に示す事項には、その国の名称も含まれます。
委員会は2023年6月2日の注意喚起で、本人の同意なく個人情報を含むプロンプトを入力する場合について、AIの提供事業者が「機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」を求めています。
弁護士と税理士の守秘義務
弁護士法23条と弁護士職務基本規程23条は、職務上知り得た秘密を守ることを弁護士に求めています。税理士法38条も、業務で知り得た秘密を正当な理由なく漏らすことを禁じています。
弁護士情報セキュリティ規程は、扱う情報に応じて情報セキュリティへの危険を把握するよう努めることを求めています(3条1項)。5条は、提供や送信を含む各段階での管理を定めています。どのモデルがどの国で文書を処理するかも、確かめておきたい点の一つです。
設定に左右されない答え方
売買契約書の条項をAIに検討させるのに、買主の代表者の氏名は要りません。氏名、住所、口座番号、マイナンバーなどを先に取り除いておけば、どのモデルがどの国で処理しても、それらの値は事務所のパソコンから出ません。
promptShieldは、識別情報をパソコンの中で[P0ABCD]のような形式のコードに置き換えます。Word、Excel、PowerPoint、PDFのファイルを読み込み、元の形式のままダウンロードできます。同じフォルダーの中では、同じ氏名に同じコードが付きます。別のフォルダーでは別のコードになります。
AIの回答をデコードすると、パソコンの中でコードが元の値に置き換わります。検出、コード化、黒塗りはパソコンの中で行われ、文書が外に出ることはありません。仕組みは別の記事で説明しています。
ただし、識別情報を取り除いても、文書が秘密でなくなるわけではありません。テナントで使えるモデルの確認、学習に使われない契約条件、事務所のルールの書面化は引き続き必要です。法律分野向けのAIサービスについては、AI契約書レビューの料金は何の対価か:ChatGPTとの違いで取り上げています。
よくある質問
日本のテナントでは、Copilotの処理は日本国内で行われますか?
保存と処理は分けて考えます。プロンプトと応答の保存場所は約束の対象ですが、EU以外の顧客のクエリは、米国、EU、その他のリージョンで処理されるとされています。国内で処理する選択肢は、2028年の見込みです。
CopilotでClaudeのモデルを使わないようにできますか?
できます。Microsoft 365管理センターの「Copilot」の設定で、Anthropicを無効にできます。設定の変更には、AI管理者かグローバル管理者の役割が必要です。
Copilotへの入力は「外国にある第三者への提供」に当たりますか?
委員会のQ&Aでは、外国の事業者が「個人データを取り扱わないこととなっている場合」は当たりません。AIの処理がこれに当たるかは、契約と実態をもとに判断します。当たらない場合も、処理される国の制度を把握する必要があります。
Copilot for Legalは日本の契約書にも使えますか?
Microsoftによると、法務のスキルは主に米国英語で検証され、提供開始の時点では英語の性能が最も高いとされています。既定では法域も考慮しません。日本法の契約書では、結果を必ず人が確認してください。