ひな形や、相手方の情報が入っていない下書きであれば、ChatGPTにアップロードしても問題になることはほとんどありません。相手方と取り交わした契約書は事情が違います。AIサービスのセキュリティより先に確かめるべきなのは、その契約書自身の秘密保持条項です。
まず秘密保持条項を読む
アップロードする前に、契約書の秘密保持条項を確認します。見るべきなのは、「秘密情報」の定義と、開示してよい相手の範囲です。
秘密情報の範囲は契約によって異なります。相手方から受け取った資料だけを指す条項もあれば、契約の存在や内容そのものを秘密情報に含める条項もあります。後者であれば、契約書のファイル自体が秘密情報です。秘密保持の義務が契約の終了後も一定期間続くと定める条項も多いため、取引が終わった契約書でも確認が必要です。
開示してよい相手については、自社の役員や従業員、弁護士、公認会計士、税理士などに限り、同等の守秘義務を負わせることを条件とする条項がよく見られます。専門家が例外とされるのは、法律や職業上のルールで守秘義務を負っているからです。AIサービスの事業者は、この範囲に入っていません。
アップロードした時点で決まる
秘密保持条項が守ろうとしているのは、情報が合意した範囲の外に出ないことです。ファイルを送った時点で、情報はすでに事業者のサーバーにあります。違反になるかどうかを左右するのは送ったという事実で、何かが漏れたかどうかではありません。
この点で、契約書はほかの文書と違います。診療の記録であれば、考えるべきなのは個人情報のリスクです。契約書の場合は、内容を理解しようとしてアップロードしたその契約自体に違反するおそれがあります。しかも、何も起きていないように見えるため、こうした使い方はなかなか改まりません。
契約書から分かること
署名済みの契約書には、ふだん公開しない情報が並んでいます。
- 会社名、法人番号、本店所在地
- 署名者の氏名と役職、担当者の直通の電話番号やメールアドレス
- 単価、値引き、最低発注量、中途解約の違約金
- 支払条件の欄にある振込先の口座番号
- 通知先の住所と締結日
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)によると、会社などの団体そのものに関する情報は個人情報に当たりませんが、役員や従業員に関する情報は個人情報に当たります。会社同士の契約書でも、署名者や担当者の氏名、直通の連絡先は個人情報です。秘密保持条項の有無とは別に、個人情報保護法も関わってきます。
個人情報保護委員会は2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、個人情報を含むプロンプトを入力する事業者に対し、利用目的の範囲内かどうかを十分に確認するよう求めています。あわせて、提供事業者が「機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」も求めています。
学習をオフにしても変わらないこと
OpenAIの説明では、個人向けのChatGPTでは、データコントロールの設定で会話を学習に使わないようにできます。法人向けのサービスは、既定で学習に使わないとされています。設定しておく価値はあります。
ただし、この設定が決めるのは、届いたファイルを事業者がどう扱うかです。開示はファイルを送った時点で終わっており、写しは自社で管理できないシステムの上にあります。会話を削除しても、OpenAIの説明では、事業者のシステムから消えるまでに原則として最長30日かかります。後から設定を変えても、送ったことは取り消せません。
条項は残し、当事者の情報を取り除く
契約書についてAIに尋ねたいことは、たいてい構造の問題です。解除できる条件、損害賠償の上限、自動更新の有無、通知の期限などで、どれも当事者が誰かを知らなくても判断できます。
たとえば「[O7KQ2M]が本契約に関して[O3XRW9]に負う損害賠償の額は、直近12か月に受領した委託料の総額を上限とする」という条項でも、AIは上限の決め方と、それが当事者にとってどう働くかを説明できます。
promptShieldは、氏名や会社名を[P0ABCD]のような形式のコードに置き換えます。先頭の文字は情報の種類を表し、コードの長さは元の文字列に合わせて変わります。同じフォルダーの中では同じ値に同じコードが使われるので、第4条の買主は第19条でも同じ当事者として読めます。案件ごとに、関連する文書を1つのフォルダーにまとめておきます。フォルダーが違えば、コードも違うものになります。
コードと元の値の対応は、パソコンの中のコード台帳に記録されます。元に戻せることがこの方法の利点です。一方で、個人情報保護法は、他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できる情報も個人情報に含めています。ガイドライン(通則編)は、容易に照合できる状態を、通常の業務における一般的な方法で照合できる状態と説明しています。コード台帳が社内にある限り、コード化した文書も会社にとっては個人情報のままです。この点はマスキングした文書と個人情報保護法の記事で説明しています。
手順
- パソコンの中でコード化します。氏名、会社名、住所、口座番号、日付を、何かを送る前にコードに置き換えます。
- 検出結果を確認します。自動の検出で識別情報がすべて見つかるとは限らず、見落としが1件あるだけでも問題になります。確認済みにするまで、保護したファイルはダウンロードできません。
- AIに質問します。コード化した文章のまま、要約、条項の確認、比較を依頼できます。
- 回答をデコードします。お使いのパソコンの中で、コードが元の名前に戻ります。
検出、置き換え、コード台帳は、すべてパソコンの中にあります。ネットワークから切り離しても、文書の処理は続けられます。仕組みはコード化の仕組みの解説で、署名済みの契約書をスキャンした画像の場合はスキャン文書の扱いで説明しています。promptShieldのWindows版デスクトップアプリは、アカウントを作らずに無料で試せます。
よくある質問
秘密保持条項がない契約書なら、アップロードしても問題ありませんか?
契約上の制約はないかもしれません。ただし、交渉の段階で結んだ秘密保持契約や社内規程、職業上の守秘義務が適用されることがあります。署名者の氏名や連絡先が個人情報であることも変わりません。
条文を一部だけ貼り付けるなら大丈夫ですか?
大きくは変わりません。1つの条文に両方の当事者名が書かれていることは多く、通知や支払いの条項は特にそうです。社名や口座番号を含む抜粋は、量が少ないだけで同じ開示です。
すでにアップロードしてしまった場合は、どうすればよいですか?
取り消すことはできないので、社内のインシデントとして扱います。送った内容と日時を記録し、会話を削除します。契約書に相手方への報告義務がないかも確認してください。そのうえで、取引の担当者や法務の担当者に伝え、次の契約書からは送る前に当事者の情報を取り除きます。