氏名を消したり記号に置き換えたりした文書、いわゆるマスキングした文書でも、個人情報保護法のうえでは個人情報のままであることがよくあります。決め手になるのは見た目ではなく、元の情報と照らし合わせる手段が社内に残っているかどうかです。記号と氏名の対応表を持っている会社にとって、その文書は個人情報であり、法律上の義務もそのまま続きます。
条文が何を個人情報としているか
個人情報保護法第2条第1項は、個人情報を、生存する個人に関する情報で、氏名や生年月日などの記述によって特定の個人を識別できるものと定めています。そのうえで、かっこ書きにより、他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できることとなるものも含めています。
氏名が書かれていない文書でも、社内の別の資料と突き合わせて誰のことか分かれば、個人情報になり得るということです。たとえば人事面談の記録から氏名を消しても、所属部署、役職、面談日が残っていれば、人事部の名簿と照らし合わせるだけで本人にたどり着けます。
「容易に照合」は、普段の業務でできるかで判断する
個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」は、容易に照合できるかどうかは事業者の実態に即して個別に判断するとしたうえで、通常の業務における一般的な方法で照合できる状態をいうと説明しています。ほかの事業者に問い合わせなければ照合できないような場合は、一般に、容易に照合できない状態とされています。
理屈のうえで照合できるかどうかは、ここでは問われていません。見るのは、その会社が普段の仕事の中で照合できるかです。対応表が部署の共有フォルダーに置いてあれば、担当者はいつでも開いて照合できます。この場合、照合は普段の業務の範囲に入ります。
対応表を残すかぎり、個人情報のまま
氏名を[P7Q3K]のような形式の記号に置き換え、記号と氏名の対応表を残しておく方法には、あとで元に戻せるという利点があります。一方で、対応表がある限り、その会社は置き換えた文書をいつでも氏名と結び付けられます。第2条第1項のかっこ書きに当てはまるので、その会社にとっては個人情報のままです。例外もあります。委員会のQ&A(Q1-18)は、部門ごとのデータベースの双方を扱うことが規程上も運用上も厳格に禁止され、通常の業務では照合できない場合を挙げています。この場合は、容易に照合できない状態とされています。担当者が対応表を普段の業務で開けるなら、これには当たらないと考えられます。
個人情報保護法は、加工した情報について、第2条第5項と第6項で別の区分も定めています。どちらも、法律と委員会規則が定める基準に沿って加工し、作成した事業者が所定の義務を守ることが前提です。ツールで氏名を置き換えたり消したりしただけで、文書がその区分に入るわけではありません。
promptShieldのコード化と黒塗り
この点は、promptShieldにもそのまま当てはまります。コード化は元に戻せる方法です。氏名や住所をコードに置き換え、コードと元の値の対応を、お使いのパソコンの中のコード台帳に記録します。同じフォルダーの中では、同じ値に同じコードが使われます。コード台帳が残っている限り、コード化した文書は、自社にとって個人情報として扱う必要があります。
コード化で守れるのは、AIサービスなど社外の相手に氏名や住所を渡さずに済むという点です。文書を法律上の扱いが変わる情報に作り替える機能ではありません。また、コード台帳をエクスポートすると、コードと元の値の対応がそのまま読めるファイルができます。このファイルをコード化した文書と一緒に渡せば、受け取った人はすべてを元に戻せます。
黒塗りは元に戻せない方法です。対応表は作られず、黒い四角の下にあった文字そのものがファイルから削除されます。ただし、黒塗りをしても、誰のことか分からなくなるとは限りません。残った役職名、日付、取引の内容から本人が分かる場合もあります。自動の検出ですべてが見つかるとは限らないので、どちらの方法でも、結果を確認してから使います。
早見表
- 識別につながる記述をすべて削除し、対応表も元に戻す手段も残していない:残った記述や社内のほかの情報から本人が分からなければ、個人情報に当たらない可能性があります。
- 記述をコードに置き換え、対応表を社内に残している:自社にとっては個人情報のままで、義務も続きます。
- 黒い四角を上に重ねただけで、下の文字が残っている:コピーすれば文字を読み取れるので、何も守られていません。守ったつもりになる分、かえって危険です。
どれに当たるか迷う文書は、個人情報として扱っておくのが安全です。
「匿名化しました」と書く前に
社内の記録や取引先への説明に「匿名化した」と書くと、読んだ人は、もう個人情報として扱わなくてよいと受け取ります。対応表を残しているなら、「氏名などを記号に置き換え、対応表は社内で管理している」と書くのが正確です。こう書いておけば、引き続き個人情報として管理していることが伝わります。コード化の仕組みはコード化の仕組みの解説で、守秘義務のある文書の扱いはクラウドを使わない黒塗りの記事で説明しています。
よくある質問
氏名を消した文書は、個人情報に当たらないのですか?
そうとは限りません。生年月日、住所、勤務先などの組み合わせで特定の個人を識別できる場合や、社内の別の情報と容易に照合できる場合は、個人情報に当たります。消した氏名を別の表に控えている場合も同じです。
記号に置き換えた文書なら、扱いを緩めてよいですか?
渡した先で誰のことか分からなくなる点は、リスクを下げます。ただ、対応表を持つ自社にとっては個人情報のままなので、社内規程や法律上の扱いを緩める理由にはなりません。
対応表にパスワードをかければ、匿名と言えますか?
言えません。パスワードをかけても、それを知っている担当者が通常の業務の中で照合できる状態は続きます。対応表を完全に削除し、ほかに元に戻す手段もない状態になって、はじめて検討の余地が出てきます。