AIは、自分の出力に責任を持てません。責任を持つとは、誤りがあったときに何かを失う立場に立つことで、AIには失うものがないからです。問うべきなのは「AIに責任があるか」ではなく「誰が責任を持つか」で、その答えは必ず人になります。匿名化であれば、その人がファイルを作る前に文書を見ている必要があります。
確認者の欄に印を押すということ
日本の職場では、書類に「作成者」と「確認者」の欄を分けて設けることがよくあります。確認者の印は、内容に目を通し、この書類を外に出してよいと引き受けた、という意味を持ちます。
たとえば山田 花子さんが、AIの助けを借りて報告書を書いたとします。全文を自分で書いたわけではないので、これまでどおり「作成:山田 花子」と書くのはためらわれます。一方で、作成者を「AI」とするのはさらに実態から離れます。AIは、評価を受けることも責任を負うこともできないからです。実態に近いのは、「下書きはAI、確認は山田 花子」という書き方でしょう。指示を出し、手を入れ、最後に全体を読み通したのは山田さんで、その山田さんが確認者として名前を出しています。
確認者の欄に印を押すなら、少なくとも中身は見ておく必要があります。目を通さずに印を押せば、AIの出力が正しいと確かめないまま保証することになります。AIが間違っていれば、その印にはもともと裏付けがなかったことになります。すべての行をやり直す必要はありません。それではAIを使う意味がなくなります。ただ、結果に名前を出せる程度には確かめておく必要があり、チェックボックスや利用規約の一文はその代わりになりません。
AIには、失うものがありません
うまくいったときに評価を受けるのは簡単です。責任があるというのは、うまくいかなかったときの結果も自分で引き受けることです。設計図書に名前を記した建築士や、意見書に署名した弁護士は、判断を誤れば資格や仕事を失うことがあります。AIは確認する人より鋭い指摘をすることもありますが、罰金を科されることも、訴えられることも、資格を停止されることもありません。モデルの性能が上がっても、この点は変わりません。
総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日)は、アカウンタビリティを「AIに関する事実上・法律上の責任を負うこと及びその責任を負うための前提条件の整備に関する概念」と定めています。このガイドラインが対象としているのも、AIそのものではなく、AIを開発し、提供し、利用する事業者です。同じガイドラインは、自動化されたシステムを信頼しすぎる「自動化バイアス」にも触れています。その対策の例として挙げているのが、AIの判断を人が承認するときには、承認する理由や根拠を自分で考えてから承認する、というやり方です。
匿名化では、誤りが表に出ません
検出が氏名を一つ見落としても、何も壊れず、エラーも出ません。実名を含んだまま文書が外に出て、気づいたときにはもう取り戻せません。すべてを自動で済ませるツールを使うということは、見落としがないことを確かめないまま信じるということです。100件のうち99件を正しく置き換えても、残りの1件が漏れれば、その文書の匿名化は失敗です。ソフトウェアがどれほど良くなっても、責任を持てる匿名化には人の確認を組み込む必要がある、と当社は考えています。
確認といっても、すべての文字を読み直すわけではありません。検出が見落としやすい場所と、検出しすぎた場所を重点的に見ます。日本の文書であれば、次のような点です。
- 末尾の署名欄や記名押印欄、ヘッダーとフッター、表のセル、メールの引用部分
- 振込先の口座名義など、半角カタカナで書かれた氏名
- 同じ人物の別の書き方(「山田 花子」「山田様」「ヤマダ ハナコ」など)
- スキャンした文書で、文字がうまく読み取れていない部分
- 地名を含む社名や商品名など、個人情報ではないのに検出されたもの。置き換えても守れるものはなく、文書が読みにくくなるだけです
- 種類の付け方の誤り。組織名が氏名として、日付がID番号として検出されていれば直します
promptShieldでは、提案と判断を分けています
手間のかかる作業は、パソコンの中でソフトウェアが受け持ちます。決まった形の情報を探すパターン、氏名などを見つける検出モデル、必要に応じて使うローカルのAIモデルが、見つけたものを候補として提案します。何度も出てくる氏名はページをまたいで関連付け、明らかな誤検出は取り除きます。長い文書なら、何時間もかかっていた作業が数分で済みます。
決めるのは人です。検出結果は一つずつ領域として表示され、確定、調整、追加、削除ができます。[P0ABCD]や[A1WXYZ]のような形のコードに置き換えたファイルが作られるのは、人が見たあとです。既定では、置き換える項目がある文書は、確認済みにするまでダウンロードできません。
よくある質問
AIは、なぜ自分の出力に責任を持てないのですか?
責任を持つとは誤りがあったときに何かを失う立場に立つことで、AIには失うものがないからです。処分を受けることも、資格を失うことも、訴えられることもありません。結果を引き受けるのは、資格と信用を持つ人です。
人が確認すると、AIを使う速さが失われませんか?
失われません。確認は、一から作るよりずっと軽い作業です。丸一日かかっていた下書きが数分でできるようになり、人に残るのは判断の部分です。専門職の価値は、もともとその判断にありました。
確認では、具体的に何を見ればよいですか?
文書が外に出る前の検出結果です。何が見つかったか、何が見落とされたか、種類を間違えているものはないかを見ます。確認済みにした値は、コード化すればあとで元に戻せるコードに置き換わります。